これからの介護に欠かせない「ノーリフティングケア」
介護者も利用者もうれしい「ノーリフティングケア」
人口の約20%が後期高齢者になるといわれる2025年問題は、人手不足が続く介護業界にとって大きな問題です。介護職を選ぶ人が思うように増えない理由の中で最も多いのは「心身にかかる負担」です。人手不足が慢性化すると、抱え上げなどを伴う重労働が長時間に及んでしまう場合もあります。利用者とのコミュニケーションが精神的負担に感じられると、心身の両方に大きな負担を感じて疲労が蓄積されてしまいます。介護者が過労状態になれば、介護サービスの質も落ちてしまうでしょう。
そのような問題を解決するために役立つのが「ノーリフティングケア」です。ノーリフティングケアとは、介護や医療の現場における移乗業務を補助機器を用いて行う「抱えない介護」のことです。介護者の3人に1人は腰痛に悩んでいるといわれており、人材が定着しにくい要因のひとつとなっています。ノーリフティングケアは、慢性的な人手不足の解消につながる有効な対策として認識されつつある方法です。移乗介助を電動リフトなどの補助機器に任せることは、利用者にとっても褥瘡(じょくそう)や変形拘縮(こうじゅく)の防止に役立つことから、有効な方法といえるでしょう。
介護サービス利用者の中には、目の前にいる介護者に重労働をさせてしまっていることに罪悪感を持つ人も少なくありません。過度に負い目を感じるなら利用者の心の健康にも悪影響を与えかねませんが、ノーリフティングケアであれば利用者の心理的負担は大幅に軽減されます。利用者に笑顔が増えることは、認知症の防止にも効果があります。
日本の介護と海外の介護の違い
日本では「できる限り人の手を使った介護を行いたい」という意識が根強くあるものです。その一方で、ヨーロッパなどではノーリフティングケアが当たり前になっています。力ずくで行われている日本の介護は、ノーリフティングケアが当たり前の国の介護者から見ると虐待しているかのように見えることもあるようです。
人の手で行う介護に対するあたたかい思い入れそのものは悪くありませんが、ノーリフティングケアのほうが介護者と利用者の双方にとってメリットが大きいという現実を受け止める必要があるのかもしれません。
ノーリフティングケアのコスト面はどうか
ノーリフティングケアに使用される電動リフトなどの機器類は高額で、コスト面で余裕のない事業所は導入が不可能との声もあります。しかし、電動にこだわらなければ他にも方法はあります。トランスファーボードやスライディングロープなどの福祉用具を使用すれば、比較的安価にノーリフティングケアを導入できます。できる範囲で少しノーリフティングケアを導入するだけでも、介護者と利用者の双方が大きな効果を実感できるでしょう。