介護者を悩ませる腰痛
介護者の多くを悩ませる「腰痛」
介護者の中には、ひどい腰痛に悩まされながら日々の業務をこなしている人が少なくありません。腰痛を抱えたまま無理する日々が続いたことで離職を余儀なくされてしまう人もいます。介護者の腰痛は介護業界共通の問題として認識され、ある程度の対策も講じられていますが、根本的な問題を解決するには程遠い状況です。とはいえ、入浴や食事の介助、おむつの交換など、介護者の日常の動作はどれも相手を抱えたり持ち上げたりするものばかりです。相手の体重を受け止める姿勢も、そのとき行っている介護業務によってそれぞれ異なります。そのため、腰だけでなく腕や肩にも大きな負担がかかり続けてしまっている状態です。
腰痛の原因にはさまざまなものがありますが、介護者が抱えている腰痛は筋肉疲労の蓄積が原因となっていることが多いようです。介護業務で腰に負担をかけ続けていると筋肉が緊張状態になり、ふとした瞬間にぎっくり腰を発症してしまう場合もあります。そのような中で生まれたのが、「抱えない介護」という発想です。抱えない介護は「ノーリフティングケア」とも呼ばれ、海外ではすでに導入されつつある手法です。
「抱える介護」は腰痛のもと
介護業務は腰に負担のかかる動作が多く、腰痛に苦しむ介護者の数は増える一方です。介護職を含む保健衛生業における業務上疾病で、「腰痛」の占める割合は全体の約30%です。厚生労働省が実施したアンケートでは、介護現場で働く上での悩みや不安として「腰痛」を挙げる人が約30%いました。抱えたり支えたりする対象は人間なので、安全のため常に緊張感を持たなければならならず、そのようなストレスが腰痛を引き起こす原因になるとの研究結果もあります。
そこで注目されているのが「抱えない介護」です。厚生労働省はこの事態をふまえて「職場における予防対策指針」という通達を出しています。この指針の中で推奨されているのは、補助機器などを導入して作業を自動化または機械化したりするなど、腰に大きな負担をかけないための対策です。しかし、介護現場にこの指針が周知徹底されておらず、認識があったとしても罰則がないことから重要性に対する意識は低いというのが現状です。移乗介助を食事や入浴の介助の間にある単なる「つなぎ」としてしか考えておらず、腰に大きな負担をかけてしまう危険性を認識していない介護現場も数多く存在します。
日本の介護現場に移乗介助用の補助機器があまり導入されないのは、そのような考え方が浸透していることの表れともいえます。補助機器等に頼らず人の手だけで介助が行われる限り、腰痛に悩む介護者の数を大幅に減らすことはできないでしょう。